Masato Kubo

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暗いゲストを照らし出せ!目立たない2人を目立たせろ!披露宴会場におけるライティング!~スポットを作ろう編

「海きれい。空きれい。だけど写真には写らない。だって部屋の中と露出差すごいから。」

「ナチュラルな光といえば聞こえはいいけど…もう一声二人を目立たせたい!」

これも、あるあるなのではないでしょうか。とくに海沿いやホテルの高い階にある会場のフォトグラファーさんは苦しんでるはずです。ということで今日は前回の続き。

暗いゲストを照らし出せ!目立たない2人を目立たせろ!披露宴会場におけるライティング!~スポットを作ろう編

です。前回は「スポットがあるけど地明かりなくて周りのディティールがまったくわからない」という地明かりなしに対して、今回は「地明かりはあるけどスポットないから光がフラットすぎる」というスポットなしな状況に対応してみましょう。前者はホテル系、後者はレストラン系に多いですね。ゲストハウスは立地条件によってどちらにも転ぶ印象です。ではいきましょう!


その1:メインテーブル

第5回の終わりがけに書いた「メインテーブルの後ろは真っ青な海と空。オーシャンビュー綺麗だけど、バウンスしたら…ふっとんで真っ白ー(泣)」とはこのカットのことです。冒頭にも書きましたが、海や空が近い会場を撮るフォトグラファーさんは毎度キツイ思いをしているのでしょう。

Why:海と空の色を出し、会場から見たままの景色を残すため。

Where:新郎新婦と集まったゲスト

How:フロントトップからの順光直当て

ノンストロボです。ミックス光です。これを「雰囲気があるからOK」ととるのか「ディティールがまったくでてないやんけ」ととるのかはフォトグラファー次第。僕自身も絶対NGとは思いません。こっちが好きなお客様もいると思います。

behind the scene

入れ方としては、第4回のボックスを使った集合と同じ当て方です。が、今回はボックスを使わない直当てですね。あれ?ボックス使わなくていいの?となった方もいるかもしれませんがその解説はまた後程。

これも有り無しを比較してみて、ないほうが好きというフォトグラファーさんやお客様もたくさんいると思います。これを撮った理由としては「お客様がこの会場を選んだ理由の一つには、絶対にこのオーシャンビューがあるだろうな」と思うから。プランナーさんも「お天気がいい日はすごく海と空がキレイで~」的なトークをしてるはずです。なにもこのホテルに限らず、オーシャンorスカイビューを売りにしている全国の会場さんは同じようなトークをしてるはずです。…でもさ!!!肝心の本番の写真には海と空が写ってないじゃん!!!!ってなったらお客様はがっかりするんじゃないかなー、と思ってこのライティングにしました。

この撮り方はかなり好みが別れる撮り方だろうなとも思います。けっこうなコントラストなので、「かっっったいな!!」と感じる方もいるでしょう。ボックスを使わないのは海と空の露出に対して、かなり露出が落ちてしまうから。なんならcanon600ex-rtの直当てフル発光でも出力が足りてないんです。ただし、この生の直当てはいわゆる「ゆるふわ系」の新郎新婦様相手にやっちゃうと二人の空気感が台無し。今回サンプルに出したお二人はキリッと系のお二人だったので直当てでも雰囲気が壊れなかったのですが、そこは二人の雰囲気を見て判断するのがよいでしょう。でも、この撮り方を知っておくのと知らないのでは大きく違うと思いますのでやり方の一つとしてしまっておいてください、ということです。


その2:手紙、謝辞など

手紙や謝辞のシーン。入場や映像中は「強いスポットと暗転した会場」に対して「地明かりをプラスする」イメージでしたが、このカットは全く逆で「逆光が強かったり、スポットがなくて二人が目立たない」という場合に「地明かりに対してスポットをプラスする」という考え方です。

Why:逆光状態の主役を引き立たせるため

Where:新郎新婦

How:二人の正面にグリッドを置き、フロントライトとして当てる

 

behind the scene

ノンストロボのカットがなかったのでストロボ有りだけ添付します。現場の状況としては、正面から撮ろうとしてもAFが機能しないくらいに「逆光半端ないって」でした。それを返すライトが常設されていないため、正面にグリッドをおいてます。ご両親も含め6人を照らしても良かったんですが、主役を立たせたくてグリッドを使用しました。このカットの時に気をつけることは謝辞や手紙が極端に短かった時のための安牌カットを必ず抑えておくこと。ライティングに慣れないうちは、定常光とストロボのバランスを取るのに時間がかかると思うので、あたふたしてるうちに手紙終わっちゃった!とならないよう注意しましょう。


地明かりがないなら地明かりを、スポットがないならスポットを。

6、7回目にしてようやく実践的な内容をお届けすることができました。この二回の記事を考え方として大まかに分ければ「地明かりを作るのか、スポットを作るのか」ということだけです。

ワークショップでもお話した内容なのですが、結婚式場というのは会場そのものをきれいに照らす照明が組まれていることはあっても「会場に立たせた人物」をきれいに照らす照明が組まれていることはまずないです。僕が普段入る会場で言えば、アンダーズ東京さんはきちんとメインテーブルと正面扉の斜め前(フロントトップ)の位置にライトが組まれているので非常に撮りやすいです。が、人物のことを考えて照明を配置してある会場はアンダーズさんのようなごく一部のホテルを除き、ほぼありません。

もう少し突っ込んだことを言えば、おそらく結婚式場に照明および光のプロというのは存在しないと言ってもいいと思います。PAさんですら、プログラムされた照明の切り替えや強弱をコントロールする程度。「光の当たる角度、光の質、光の温度」これらに精通する人間がいないのです。メインテーブルの真上から真下に落ち、頬骨の影をがっつり作るダウンライト。色温度の揃っていないスポット光。時間をかけてドレスを選び、丁寧にヘアメイクをして、美しく仕上がった新婦様に対して、そのような雑な光の中で撮影するのは本当にもったいない。自分の作品として、私写真として撮るならばそのような光でも問題ないですが、お金を頂くフォトグラファーである以上、光に対してもっと前向きに、責任をもって取り組むべきなのではないでしょうか。

そして、こういうことをやる理由の根源には「写真は階調(tone)だ」という絶対的な指針にしている言葉があります。黒を潰さない、白を飛ばさない。豊かな階調こそが写真の美しさを支えるものだという指針があるので、どんなシーンでもそれを目指してライティングをしようと心がけています。もちろんクリップオン2灯程度ではどうにもならない状況もたくさんありますが、「階調を豊かに見せる」という指針がブレることはありません。

ライティングから少し話は逸れますが、海外のハイレベルなウェディングフォトグラファーの写真は本当に階調が豊かで、白の中にも黒の中にも表情があります。とりわけ、僕ら日本のウェディングフォトグラファーに、ビジュアル的な面で一番足りないものはこの「階調」に対する意識の低さなのではないでしょうか。故に、階調をきちんと見せたいというのが僕がライティングを現場に持ち込む理由の一つでもあります。「でも、現場が潰れてるんだからしょうがないじゃ~ん」「だってスポットが強すぎてとんじゃうんだもん」と言い訳するのは簡単ですが、そこをもう一声がんばる!というガッツを持つと、ライティングに対する意識も変わってくるでしょう。


次回は前撮り系に使えるライティングのご紹介。舞台は日本庭園です。題して「曇りの日でも諦めるな!逆光を作れ!サイドライトを寄せろ!ロケ現場で使うライティング!」。天気の悪い日、まろやかな光の全カットデータにスパッとした光を差し込んでみましょう。ではまた次回!